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2009年12月23日

食道ガン由来「ガン幹細胞」発見 伴貞幸

2005年4月、放射線医学総合研究所フロンティア研究センター放射線感受性遺伝子プロジェクトの伴貞幸主任研究員らは、食道ガン由来の培養細胞から「ガン幹細胞」を発見した。この細胞は自己増殖能だけでなく、細胞の性質が変わる分化能をもっていた。詳細に検討すれば、ガン悪性度の評価手法の開発につながり、食道ガンの予後の悪さを改善できる可能性が出てきたという。

この成果は、放射線ガン治療のテーラーメイド化に向けた放射線感受性遺伝子に関する研究の一環から導き出された。様々なガン細胞を利用して、そのコロニーの形態や放射線感受性、遺伝子の発現状況などを評価したところ、KYSE70と呼ばれる細胞株から分裂した娘細胞が親細胞と違う性質をもっていた。具体的には2種類の細胞が産生されるが、その一方でガンの転移性に関与する運動性が高まっていたという。

実験では、KYSE70細胞で盛り上がったコロニーと一層からなるコロニー、その二種類の状態が混ざり合ったコロニーをそれぞれ作らせた。各コロニーに放射線を照射した結果、盛り上がったコロニーが単に一層のコロニーへと形態変化することが観察された。また、KYSE70細胞の放射線感受性を調べたところ、400個の遺伝子の発現が影響を受けることが分かり、一層のコロニーを作る娘細胞群ではその発現量が高まっていた。タンパク質分解酵素遺伝子の発現も高まっており、これは転移性細胞の典型的な遺伝子発現状況だった。

コロニーの形態変化は、運動性の違いによって起こることが知られるため、放射線照射後の再発ガンを考える上で重要な知見になる。さらに、放射線感受性をもつ400個の遺伝子の発現量の増加も運動性やガンの悪性度を研究する新たな示唆を与えている。特に、ガン細胞の自己増殖能に加え、分化能を直接観察した成果は珍しく、KYSE70細胞株がガンの転移性の研究に関して有用なモデルになると期待された。

ガンの致死率が上がるのは局所の腫瘍ではなく、転移のプロセスである。死因の90%が転移によるとも言われている。ところが転移に焦点をあてた研究はアメリカにおいても少なく、1972年以後のNCIの助成金に関するフォーチュン誌の調査によると、例えば特定のガンにおける転移の役割や、プロセスそのものの理解を目的とした転移に焦点をあてた研究提案は0.5%もなかったといわれている。当時放射線の生物・医学的影響を調べている研究機関からは「ガン幹細胞」研究報告は伴氏らが初めてであった。難治性のガン治療の解明に、日本人である彼らが世界に先駆けてまた一歩踏み出したようである。

参考資料

放医研ニュースNo103 2005/06号 http://www.nirs.go.jp/report/nirs_news/200506/hik11p.htm